失敗例

業務を20数年も行っていますと成功ばかりではなく、ごく稀に失敗もあります。また、許可を得ながらもクライアント様に満足していただけなかったりすることもたまにあります。

行政書士になってから今まで、目の前の業務に真剣に取り組んできた一方で、これまで関わってきた数百あるいは千もの事例について検証することをしてきませんでした。

許可された例はもちろんのことですが、不許可となった案件や、不許可にならないまでもクライアント様の満足度が低かった仕事の中にも、未来にいただくご依頼にうまく対応するヒントや教訓が隠れているはずだと思いました。

この機会に、本ページでは特に失敗、つまり不許可になった事例や、クライアント様に100パーセントの満足感を与えられなかった事例を中心に開示していきたいと思います。

ご覧いただく皆さまには、ご自身のケースと見比べて安心感を得たり、また危機感を持っていただくなりしていただいても結構ですし、小生の力量を見極めていただいても結構です。

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近年、小生は鎌田浩毅さんという地球科学者の方の本を多く読むようになりましたが、鎌田さんの著書に繰り返し出てくる言葉があります。それは「過去は未来を解く鍵」です。

この言葉の意味するところは、地震や噴火など過去に起きた自然災害の現象を詳しく解析することによって将来に起こることを予測し、防災・減災に備えよう、役立てようということです。

鎌田さんの「地球科学」と小生の「役所への許可申請」では分野もスケールも大きく違いますので、一緒に論じることは誠に恐縮ではあります。ただ、私は過去に起こった事案を復習し、至らなかった点は反省し、教訓となった事柄は未来の申請に生かしてまいりたいと考えているところでございます。

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CASE1.O.Eさん(元日本人)と奥様(米国籍)

「元日本人」というステータスで、日本に居住する在留資格(ビザ)を取得できなかった例は、当事務所では後にも先にもこの1件だけだと思います。

滅多にないとてもレアなケースですが、可能性としてはあり得る話ですので、今後は注意しなければいけないな、と思いました。では、始めてまいります。

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2024年12月下旬にウェブサイトのお問い合わせフォームから連絡がありました。「私は1999年に日本から米国・西海岸地域に移住し、2017年に米国市民権を取得しました。私と妻はこれからの人生を日本で過ごしたいです。」と書いてありました。

これを見て私は、「日本人がお仕事でアメリカに渡り、長年住んでいる間にアメリカに帰化して米国籍者となった。そして老後は日本に戻ってリタイア生活を過ごすつもりなんだな・・・。」「奥様も米国籍を取っていて、夫婦そろって元日本人なんだな・・・」と思いました。

これは、いつもやっているお馴染みの「元日本人」が「日本人の配偶者等」を取得する在留資格認定証明書交付申請だな、と思いました。

ただ、その予測をもとに「元日本人ご夫婦」という前提でお話を進めていくと、「なんか違うな…」という違和感のようなものを覚えるようになりました。するとメールを何回か交換していくうちに、以下のことが判明しました。

「私は帰化した日本人でした。」「1990年に日本の会社に就職、1997年に日本国籍を取得しました。」「2000年に米国の会社に転職し、妻とともに米国籍を取得しました。」

つまり、このご夫婦は元々、中国生まれの中国人だったのです。そして就職のために来日し、だんな様は日本国籍を取得(つまり帰化)したのです。奥様は中国籍のままでしたが、夫とともに渡米した時に、一緒に米国籍となりました。

頭が混乱しました。「え?」「え!」「まさか・・・」という感じでした。メールでやり取りをしている日本語には全く違和感はなかったので、顔こそ見えませんが画面の向こう側にいる相手は日本人(正確には元日本人)と勘違いしていました。

当事務所のウェブサイトにおいては「元日本人が米国から日本に移住帰国するための在留資格(ビザ)申請」と謳っていますが、その「元日本人」とは正確に言うと「日本人の子として出生した者」です。つまり父か母が日本人だったため、生まれた子供も日本人であったが、何らかの理由で外国籍となった人のことを言います。

当事務所の業務対象でいいますと、日本人両親or日本人父or日本人母から出生した子(日本国籍)が、渡米して米国市民権を取得してアメリカ人となった人が「元日本人」です。

このケースのように、もともと中国人だった人が日本に帰化して日本国籍を取得し、その後渡米して米国籍を取得したという人も確かに「元日本人」ということができるのですが、それは在留資格「日本人の配偶者等」の資格該当性には入らないのです。

「困ったなぁ・・・」と思いながら何か打開策はないだろうかと考えました。しかし、基準省令や入管の審査要領を見ても有効な解決策は見つかりませんでした。そこで苦渋の選択として告示外の「定住者」で行くことを考えました。

「日本人の配偶者等」という身分系の在留資格と似た感じで「定住者」というやはり身分系の在留資格があります。簡単に言うと前者が「日本人と婚姻している外国人」や「日本人の子として出生した外国人」日系二世に与えられるのに対し、後者は日系三世など「日本人の配偶者等」と比べて日本人との関係が一段階薄いステータスを持つ人に与えられる在留資格です。

その「定住者」を取得できる人の定義は「定住者告示」というルールで決まっており、それ以外の人は対象外なのですが、たとえば「日本人と離婚してしまった外国人」とか「日本人の子(非嫡出子)を養育する外国人」など、告示に当てはまる外国人ではないけれど、人道上認めなければいけない類型の外国人に対しては稀に「告示外」の「定住者」という在留資格が与えられることがあるのです。

今回のケースでも「中国 → 日本 → 米国と渡り歩いてきて、引退後に戻る場所はやはり日本だ。」とか「米国籍の人間が今、中国に戻るのは政治的に厳しい・・・」というような、苦しいですが切実な理由を押し出して申請書類一式を作成しました。

2025年

7月23日 在留資格変更許可申請(「短期滞在から」)

8月24日 入管から資料提出通知書(1)が届く

9月5日 入管から資料提出通知書(1)が届く

10月30日 入管から電話。「11月6日に申請人二人を連れて来庁してください。」

11月6日 申請人ご夫婦を連れて入管に出頭。結果(不許可)。

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やはり、残念ながら不許可でした。

この申請はご夫婦ふたりとも「定住者告示」にない「定住者」の取得を目指したため、在留資格認定証明書交付申請を選択することができず、ご夫婦に「短期滞在」で来日してもらい、「定住者」へ切り替えるという在留資格変更許可申請を行いました。

審査の途中で追加資料を要求する「資料提出通知書」を2回貰ったのですが、いずれも簡単な質問だったので、「これはもしかしたら行けるかもしれない。」という淡い期待を持ちましたが、結局は二人とも不許可という結果に終わりました。

理由は「定着性がない。」と入管の人は言っていました。彼らの人生における日本に居た(定着していた)期間の割合が小さい、ということでした。また、彼らの二人の子供も米国でそれぞれ仕事と家庭を持っているので、日本に来る可能性がないから、家族としても日本に定着する可能性も少ないだろう、ということを言っていました。

とても意外な理由を説明されましたが、私と申請人ご夫婦の3人で担当者の話を聞いていて、入管も色々と考えてくれた末での結果なのだなと思い、ご夫婦も納得されていました。

この申請人ご夫婦はアメリカに戻りましたが、日本に家を購入しているため、これからも度々、訪日しようと考えているそうです。また、リタイアメントライフと言っていましたが、ご本人たちはまだ年齢的には働けますので、就労ビザを取得することも念頭にあるそうです。

それ以来、申請人ご夫婦からはまだ連絡はありませんが、もしかしたら今後も何らかのお手伝いをすることがあるかもしれません。今回、許可の可能性が薄いとしながらも申請に踏み切ったことは、クライアント様ご夫婦の希望でもありましたので、今回の件で関係性が損なわれたということはありません。Chapter1.は失敗に終わりましたが、Chapter2.があるとしましたら、次はいい結果を出したいと思います。

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